理想のことばの学びかた

一番は赤ちゃんが大人とかかわりながら覚えること。ではそうでない場合は?

学びとる技術

誰にとっても一大事のことばの学習。
特に学生時代からの苦手意識がある場合そう気楽には進めません。
"何からどう始めればいいのかな"
"どのくらい時間をかければ話せるの?"
誰もが思うことではないでしょうか。

相手は毎日使う身近な「ことば」です。
もう少し上手に学べるはずなのに。

ゼロからの学習に必要なのは何なのか。
学ぶ側の視点でずっと考えてきました。
実体験から思うことをお話しします。

はじめの一歩

まずは学習前の心の準備のススメから。
 "こんなはずでは" と学習を始めてからの挫折を避けるための問いかけです。

単語1000語を覚えればごく簡単な会話ができるとします。
どのくらいの期間で学びますか?


2ヵ月で単語3000語使いこなせれば会話ができるとします。
挑戦しようと思いますか?

ふた月1000語とすると平均週125語。
2ヶ月3000語は無理かも。3ヶ月は?
期間を基準に考えることで学習の密度や
覚悟がイメージできると思います。
自分ならと考えるといかがでしょうか。

ちなみに①②の数は日本の中学・高校の学習要領の目標語彙数に近い数です。
知ったのは、親子でイタリア語に困り  急ぎ1000語を集めて娘と勉強した頃。
1000語に3年はあり得ない選択でした。
3000語に6年も現実的ではないような。
改めて時間配分を意識した次第です。
学習時間と意欲は直結しています。
学ぶ側も意識するべきと思いました。

世界には200程の国に5000以上の言語があり語彙数には言語差があるそうです。
ちなみに3歳児の理解力は1000語程で、一般成人は20000語程を使うとのこと。

学習としての語彙は数百語からと言われ3000語が身に付けば大部分が理解可能、不明点も自力で補える力量のようです。
初期の数百語は学習の比重が大きいこと途中から語彙が倍増していくことを思うと体験上も納得の数です。

わかる語と使える語に差があることから断言は難しそうですが、1000語程が語学上の "はじめの一歩" かもしれません。

はじめの一歩は先に繋がる大事な一歩。
上手に踏みこんで前に進みたいですね。

「知りたい」という気持ち

誰もが興味は持っていることばの学習。
難しいのは不安なまま続けることです。

誰でも好きなことには夢中で取り組み、苦手な事をやらされると嫌になるもの。
学習に努力が必須なら好きになる工夫をすることも立派な技術だと思います。

鍵は興味や好奇心を大事にすること。
原動力は「知りたい」の気持ちです。

例えば、自分の母語を意識してみる。
よく使う言葉を覚えていけば、そのまま会話で使えるはずです。
すぐに使えるなら安心して頑張れる。
続ければ理解も進み更に知りたくなる。
そんな気持の流れは やる気を呼び込み 納得感や達成感は自信につながります。

最初に少しだけ自分と向き合うことで、
良い流れに乗り前向きに取り組めるなら試す価値は大きいですよね。
知りたいことばを感じてみてください。

大変だけど楽しい

赤ちゃんの学びかたは一番自然ですが、
それに次ぐ方法は、異語圏内にひとりで飛び込むことかもしれません。
現地校に入る帰国子女のパターンです。

意味が届かず声だけが飛び交う別世界。
1から10までの丁寧な指導は極稀です。
勘でも空気でも、自分で探らない限り  何もつかむことができません。
興味の対象には驚異的な適応能力を持つ子供でも突破口までの試練は相当です。

最速で切り抜けるため、覚えておきたいことを書きとめようとしても意外と手がかかるのが母語的部分です。
単語がばらばらでわかりにくい。
確認したいのに場所が見つからない。
書き足すうちにぐちゃぐちゃ  等々。
渦中はいつでもその繰り返しでした。

始める時が一番大変なのは想定できても母語部分にこれ程手間取るなんて!

いつも使うことばとはなんだろう。
広く浅くバランスよい単語の並びは?
英語があった方がわかりやすいかも。
授業や時事用語も少しは知らないと。
関連ぺージにはすぐとべるといいな。

次回こそ!しつこく考え作成しました。
品詞別 2000語の語学手帳 Tangoです。
はじめの一歩の教材として紹介します。

ブログ・ HP に詳細を載せています。
以下は参考まで。ぜひお訪ねください。

最初に数字を学ぶ理由
帰国子女の学習事情 
「せかいのことば」

語学は世界を広げる楽しいものです。
"ことばの学習は大変だけど楽しい!"
誰もがそう思えることを願っています。

「心の小径(こみち)」

それでも不安になるときに思い出すのが 中学校の国語の教科書に掲載されていた「心の小径」です。

この物語は、言語学者の金田一京助氏が後年書かれた随筆に納められています。
樺太アイヌ語の研究のため現地を訪れた1907年25歳の時の出来事だそうです。

遠い樺太まで訪ねながらことばが通じず誰とも話ができずに3日が過ぎ焦る中、くで遊ぶ子供の絵を描き始めたところ子供達が絵の回りに集まり声をあげる。
北海道のアイヌ語に似ている!と別の絵を描くとまた似た一語。確信を持つ中で知りたくなったのは "何?"のひとこと。
これがわかれば知りたいことが聞ける。
そこで紙にぐるぐると描いてみると...!

子供達から 「何?」を引き出すくだりは読むたびにわくわくします。

この時の氏の樺太滞在期間は45日。
4000語の語彙収集・文法大要のまとめと3000行の叙事詩を採録されています。
滞在終盤には会話に困らなかったとか。
アイヌ語は文字を持たず叙事詩も口承。数時間もの叙事詩を目前で演じてもらい聞くままをローマ字で綴ったそうです。

三省堂の金田一京助全集14巻には、この話とその前後のことが綴られています。

アイヌ語を専攻することになった経緯と古典伝承叙事詩ユーカラとの出会い。
その叙事詩の解読と探索が目的で樺太に行ったものの、話しかけても避けられるばかりで絶望的になったこと。
子供を介しこの地のことばを覚え大人に披露したとたん笑顔で打ち解けた様子に「ことばこそが唯一の心に通じる道だ」との思いに至ったこと。

日本屈指の著名な先生の飾らない姿に、素直に親近感を持ちました。

伝承者の減少と高齢化で消滅寸前だった語りを聞きとり後世に残された偉業。
随所に言語と文化への敬意が漂います。
行動力や熱意信頼を得るお人柄を含めて語学に向き合う理想の姿を感じました。

人間の可能性ってすごいんですね。
刺激と優しさの一冊です。

三省堂 金田一京助全集第14巻 目次の一部